〇工場 (中山、工場に出勤してくる。)
(紺野と牧田、中山を待っている。)
紺 野 「中山さん。」
中 山 「はい。」
紺 野 「出勤したばかりで申し訳ないのですが、県警本部までおいで頂けます
か?」
中 山 「本部ですか?」
紺 野 「そうです。任意で来て頂けないとなると、逮捕状を執行しなければなり
ませんが。」
中 山 「…分かりました。」
紺 野 「有難うございます。」
(紺野、中山を車に乗せる。)
(牧田の運転で、県警本部に向かう。)
〇県警本部 (捜査一課の取調室。紺野たち、中山を取調室に案内する。)
中 山 「取調室…。どうやら貴方は、俺が犯人だと思っているようだ。」
紺 野 「早速ですが、この写真を覚えてますか?」
(紺野、10年前の写真を見せる。)
中 山 「はい、覚えてますよ。貴方が最初に見せてくれた写真ですよね?これが
何か?」
紺 野 「この写真が、ガイシャの貸金庫に保管されていたとお話しした事も覚え
てらっしゃると思いますが、やっとこの写真の意味が分かりました。」
中 山 「何ですか?」
(紺野、10年前の捜査記録を見せる。)
紺 野 「10年前、千葉市で頻発した自動車窃盗の捜査記録です。貴方は窃盗団
の一員として、県警に逮捕されていますね。」
(紺野、中山の名前を指す。)
紺 野 「ガイシャが持っていたこの写真は、その当時の写真です。どこから入手
したか分かりませんが、ガイシャはこの件で貴方を脅したか強請ったか
したんじゃありませんか?」
中 山 「何故、そう思うんですか?」
紺 野 「これは、ガイシャがPCに保存していたリストです。ここにある人たち
聴き込んでみたら、ガイシャから脅されたり、強請られたり、高利で金
を借りて返済に苦しんでいた人たちばかりでした。そして一番最後に、
貴方の名前がある。つまり、貴方もガイシャの被害者だった。私はそう
思うんですが、いかがですか?」
中 山 「さあ、どうでしょう。」
紺 野 「貴方は事件当日の午後11時頃、例の公園でガイシャと会った。そして
彼に金を渡すと見せかけて刺殺したんです。」
中 山 「刑事さん。前にも言いましたが、俺が公園にいたという証拠は?それを
証明出来ますか?」
紺 野 「貴方、マスターにこう言ったそうですね。『近くの公園で飲んでいたら
飲みすぎた。』と。ひどく酔っぱらって店に行ったとそう証言されまし
たね。貴方自身で公園にいたと仰っている。この証言を否定されます
か?」
中 山 「否定はしませんが、証明は出来ないでしょう。」
紺 野 「それが、そうでもないんですね。こういうモノが出て来たんですよ。」
(紺野、牧田から証拠品を受け取る。)
(紺野、1枚の紙切れを見せる。)
紺 野 「この紙、見覚えありますか?」
(中山、黙り込む。)
紺 野 「現場検証の時、鑑識は現場付近にあるモノを出来る限り押収します。ど
こにどんな証拠があるか分かりませんから。これは水道の脇にあるごみ
箱に棄てられていた紙切れです。これを調べて見たら…。」
(紺野、2つの指紋を見せる。)
紺 野 「1つは、ガイシャの指紋。もう1つは、貴方の指紋が検出出来まし
た。しかも、これがまた面白い所なんですが…。」
(紺野、内ポケットから財布を取り出し、中から1万円札を出す。)
紺 野 「見て下さい。」
(紺野が紙の上に1万円札を置くと、大きさがぴったりと一致する。)
中 山 「……。」
紺 野 「そう。この紙切れは、1万円札と同じ大きさに切られています。他の
お札では合いません。千円札も、五千円札も合いません。」
(紺野、千円札でも五千円札でも、重ねて見せる。)
紺 野 「これが意味する所はお分かりですか?おそらく貴方は、これを見せ金
に使った。1番上に1万円札を乗せてガイシャに渡した。金額は百万
円。棄てられていた枚数が100枚丁度でしたから、その金額に見せ
掛けようとした。しかし、それがガイシャにバレてしまった。だから
殺したんじゃないですか?貴方は最初から払う気など無かったんです
から。つまり、これは計画的殺人の証拠にもなる訳です。」
中 山 「…果たして、そうでしょうか。」
紺 野 「どうしてですか?」
中 山 「これは、俺が公園にいたという証明であって、殺した証拠ではないです
よね。物証は見つかったんですか?」
紺 野 「いいえ、現場付近にもありませんでした。まだ発見出来ていません。」
中 山 「そんな状況証拠だけで、よく逮捕状が請求出来ましたね。」
(中山、椅子から立ち上がる。)
中 山 「これは、任意ですよね?逮捕する証拠も無いなら、帰らせて貰いま
す。」
(中山、出て行こうとする。)
紺 野 「それが、見つけたんです。」
中 山 「え?」
紺 野 「凶器を、見つけたんですよ。」
中 山 「どこで。あるなら今、見せて下さい。」
紺 野 「正確に言うと、凶器を隠してある場所を見つけたんです。明日、その場
所を捜索します。」
中 山 「それは、どこですか?」
紺 野 「気になりますか?」
中 山 「それは…。」
紺 野 「今日の所は、お帰りになって結構です。明日の捜索で出て来たら、また
お迎えに上がります。」
(中山、取調室を出て行く。)
(紺野と牧田、黙って見送る。)
〇船橋 (深夜の『ビート』に、中山が訪れる。)
(中山、鍵をこじ開けようとするが、すでに開いている。)
(中山、そのまま中に入り、厨房の棚の扉を開け、左から3番目に入って
いる刃物を抜き取ると出て行こうとする。)
(その時、店の電気が付き、紺野、牧田、大滝が入口に立っている。)
(中山、黙って立ち止まる。)
紺 野 「お待ちしてました。牧田君、頼むよ。」
(牧田、厨房に入り、棚を確認する。)
紺 野 「どうだい?」
牧 田 「間違いありません。左から3番目です。」
紺 野 「中山さん、残念です。これで貴方がホシだと証明出来ました。」
中 山 「どうして。」
紺 野 「実はすでに昨日の段階で、我々は凶器を見つけていたんです。」
(大滝、袋に入れた凶器を見せる。)
紺 野 「これです。分析の結果、凶器だと断定されました。」
中 山 「それが、どうして凶器だと分かったんですか?」
紺 野 「何故って?知りたいですか?」
中 山 「はい。それに、俺の指紋でも残っていたんですか?」
紺 野 「いいえ。貴方の指紋もガイシャの血痕も残ってませんでした。見かけ上
はね。」
中 山 「見かけ上?」
紺 野 「おそらく貴方は、公園の水道で指紋も血痕も洗い流したんでしょう。見
た限りでは何も残っていないように見えます。しかし詳しく調べて見る
と、ちゃんと痕跡が残っていましたよ。」
中 山 「どこに?」
紺 野 「貴方は、ガイシャを刺した時にかなり深くまで刺していますね。そこで
我々は、刃と取っ手の接合部にあるわずかな隙間を調べて見ました。も
しかしたら、ここにも血液が入り込んでいるかもしれないと思いまして
ね。そこで刃を取っ手から引き抜いて見たところ、予想通り、僅かな量
でしたが付着していました。血液型を調べて見たらガイシャと一致、D
NA型は現在分析中ですが、おそらくガイシャと一致するでしょう。」
中 山 「…どうして、俺が犯人だと言えるんですか?」
紺 野 「昨日マスターに、ガサ入れに立ち会って頂いた時、刃物がいつもより1
本多い事が分かりました。その1本が凶器でしたが、入れてあった場所
が左から3番目です。犯人が自ら隠したんだとしたら、入れた場所を知
っているのは犯人以外にいません。ちなみに、そこに入れてある刃物は
我々が用意したもので、店の刃物は1本もありません。」
(中山、力が抜けたように、ソファーに座り込む。)
中 山 「どうして、ここだって分かったんですか?」
紺 野 「直接的なヒントをくれたのは、カミさんなんです。」
中 山 「奥さんが…?」
紺 野 「先日、カミさんが店で、知り合いから送って来たリンゴを剥こうとし
て、厨房から果物ナイフを持って来ました。それで気が付いたんです。
貴方のアリバイ証言の中で、刃物を隠しておいても違和感が無い、不自
然ではない場所が1か所だけあると。それが、ここの厨房です。それに
気付いた時、事件の全貌が見えて来ました。貴方があの公園を現場に選
んだのも、わざわざ閉店間際に店に来たのも、全て貴方の計画だった事
がね。それに、貴方には窃盗のマエがある。マスターが閉店準備をして
いる隙に厨房に入って凶器を隠す事など造作も無い事だったでしょう。
本当に、残念です…。」
岡 本 「中山さん、何て事を…。」
中 山 「マスター、ごめんなさい。巻き込むつもりは無かったんです…。」
紺 野 「…行きましょうか。牧田君、頼むよ。」
牧 田 「はい。」
(中山、ゆっくりと立ち上がり、牧田と一緒に店を出て行こうとして立ち
止まる。)
中 山 「あ、刑事さん。」
紺 野 「はい。」
中 山 「奥さんに、特製ハンバーグ定食、すごく美味しかったですと伝えて下さ
い。」
紺 野 「分かりました、伝えておきます。」
(中山、牧田に連行されていく。)
(紺野、中山たちを見送ると、店に入る。)
紺 野 「マスター、レモンジュースを下さい。」
岡 本 「はい。…ついでに、パスタはいかがですか?」
紺 野 「今日の日替わりは、何ですか?」
岡 本 「ほうれん草とベーコンのパスタです。」
紺 野 「いいですね。頂きましょう…。」
(―最終話― 了―)
(全て、フィクションです。)